青森地方裁判所 昭和24年(行)11号・昭24年(行)22号 決定
原告 相内村議会
被告 相内村選挙管理委員会委員長
一、主 文
本件を仙台高等裁判所に移送する。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は一、(イ)訴外三和房美外五名が昭和二三年九月一六日青森縣北津軽郡相内村議会議員の選挙人の地方自治法第七六條第一項所定の代表者であるとして相内村選挙管理委員会に対してした相内村議会解散の請求(ロ)相内村選挙管理委員会が同年一一月一日(イ)の請求に基きした相内村議会解散賛否投票の結果はいずれも無効であることを確定する二、青森縣選挙管理委員会が昭和二四年三月一一日相内村議会解散賛否投票の結果の効力に関する訴願についてした裁決はこれを取り消す、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求めた。
三、事 実
訴外三和房美外五名は、昭和二三年九月一六日「自分等が同村議会議員選挙人総数九四四名の三分の一以上にあたる三七三名の代表者であり、右三七三名の連署の書面に基き同村議会解散の請求をするのだ」と称して同村選挙管理委員会に同村議会の解散を請求する趣旨を記載した書面により右請求をしたところ同委員会は、同日これを受理、同月二一日その要旨を公告すると共に同年一一月一日これを同議会解散賛否投票に附した。ところで同委員会は右投票の結果、無効投票は四三票、有効投票は八五三票で有効投票八五三票中解散を是とするものは四四四票否とするものは四〇九票あり是とするものは過半数あるとして同日同法第七七條によりその旨関係先に通知すると共に公表した。しかしながら、当時有権者総数は九四四名、その三分の一は三一四名(端数は事柄の性質上切り捨てなければならない)であるところ、前叙解散請求者三七三名中解散請求書に自署すなわち自己の氏名を自分で書いた者は僅かに一一八名に過ぎず、残余の二五五名すなわち過半数の者は全然自署したわけではなくその氏名は他人の代筆に係るものである。成程、国民は国民の基本的人権を侵害し、公共の福祉を無視し全体の奉仕者であるという自覚に徹せず、また、徹しようとしない非民主的議員をもつて構成される普通地方公共團体の議会は成法上これを解散することができることは勿論であるが、他方また、一旦議員に選任された国民は憲法その他の法令所定の事由が発生しない限りみだりにその聖職を失わず一定の期間その地位身分を保障されていることもまた憲法前文及び憲法第一五條にまつまでもなく幾多の成法及び先例の明示する所である。しかのみならず、議会の解散請求は地方自治体の平和を攪乱し、議会政治にまことに戰慄すべき波紋を描き、その影響する所廣汎深刻、一朝その運用を誤れば議会制度の発達を著しく阻害し自治民主精神を萎微沈滯させ自治体の歴史に拭うべからざる一大汚点を残すであろうことは容易に看取し得る所であるから自治体の住民は愼重、翼々みだりにこの傳家の宝刀を拔くを許さず、法律がこの解散の請求に峻嚴な形式主義を採用し総有権者の三分の一以上の有権者の連署の書面をもつてしない限り全然請求の効力を発生しないとした理由も、また、実にここにあり、從つてこの請求書には個々の請求者において自己の氏名を必ず自己の肉筆で書き下すを要し代書、記名捺印その他の方法をもつてこれに摺り替えることを断じて許さないものと解さねばならない。果してそうだとすれば、前叙のように解散請求者三七三名中その過半数二五五名の自署に係らない書面による解散請求は法律上当然無効であり、從つてまた、右請求が有効であることを前提とする前顕解散賛否投票の結果もまた、その根拠を全然欠如し法律上当然無効である。
仮に右解散請求が有効であるとしても、前顕解散賛成投票四四四票中には、逆に解散反対投票と認められるもの一〇票、無効と認められるもの三〇票あり。また、相内村選挙管理委員会において無効と決定した四三票中には解散反対投票と目すべきもの三〇票ありすなわち解散賛成投票四〇四票に対しその反対投票四四九票あり、結局、解散反対投票はその賛成投票より四五票多数であるから前記、投票の結果は事実にそわず法律上当然無効である、そこで原告は、同年一一月九日地方自治法第六六條第一項により上叙事由を具陳して同管理委員会に前記投票の結果の無効確定決定を求めたところ、同委員会は、調査の結果投票終了後紙袋に收藏、嚴封保管されてあつて本件総投票用紙の包裝袋の下部八寸が何人かに切開されてある事実を発見しこれでは果して本件投票が公正に行われたかどうかを知る由がないとして同年一一月一三日異議の申立を結局認容して申立趣旨通りの決定をした。すると前記解散請求代表者の一人訴外三和房美は同月二二日右決定を不服として單独で青森縣選挙管理委員会に訴願を提起した(他の五名の代表者と共同せずして單独でかような訴願ができるかどうかにつき若干の疑問がある)これに対し同委員会は前記破損の事実はこれを認めたがこれだけでは投票の公正を疑わせる事態が発生した証拠とならないとし、なお投票総数八九六票の内無効のもの二一票、有効のもの八七五票の内、解散に賛成のもの四五二票反対のもの四二三票あり、すなわち賛成投票は反対投票より二九票多く、從つて有効投票四五二票の過半数に達するから本件投票の結果(地方自治法第一〇八條第一項)は結局適法であるとしこれと結果において反対の見解に出た、原決定は違法であるとして昭和二四年三月一一日これを取消し前記投票の結果が適法妥当である旨の裁決をした。
しかしながら右裁決は前段る説の事実に眼をおおい重大なかしを包藏し違法不当であり到底取り消される運命を免れない、よつてここに請求の趣旨記載のような判決を求めるため本訴に及ぶと陳述し、被告等の管轄違の抗弁は法律の誤解に基くものである仮に本訴が專属管轄の規定に牴触して提起されたものとしても、これを管轄裁判所に移送する旨の決定を求めるは格別不適法として却下する旨の裁判を求むべきではない。なお本案請求に対する抗弁事実は全部これを否認すると述べ立証として甲第一号証を(連記者の氏名が本人の自署でないことの資料として(提出し証人白川ミワ、三和ツヨ、猿賀リキ、佐藤ジユン、佐藤キヨ、三和フサ、三和林之助、三和かん、三和きみ、三和ハツ、葛西なよ、三浦シヨ、佐藤ナル、佐藤いそ、三和いま、猿賀勝雄、猿賀れき、三和ヤス、三浦正雄、米谷よも、佐藤ナカ、佐藤かよ、村山ミサ、米谷慶市、米谷リヱ、佐藤重夫、三和定松、岩間定五郎、三和正一、佐藤重利、佐藤そさ、三浦美代、三和いせ、佐藤ツマ、三上清治、三和こと、工藤タヨ、三和タニ、三和チサ、三和タヨ、工藤ハチ、奈良米雄、高橋りわ、岡本いよ、三和ツル、岡本チヨミ、三和イサ、三和みわ、三和八重子、三上ふみ、三浦きぬ、三和フミ、三和儀三郎、三和ミヨ、三和サクラ、三上男治、三上リチ、植野嘉之助、植野シマ、工藤寅吉、工藤タキ、長利権太郎、長利ハル、長利清太郎、工藤石五郎、工藤石松、工藤米作、工藤さくら、工藤タマ、秋田谷キセ、秋田谷文雄、秋田谷フヨ、秋田谷トメ、秋田谷寅藏、奈良ミキ、奈良米明、奈良マツヱ、奈良ニヱ、安保マヨ、の各供述を「以上有権者総数九四四名の三分の一は三一四名であり本件解散請求者は三七三名であるから右三一四名より多数ではあるが以上各証言をそう合すれば解散請求者三七三名中少くとも計一一二名は解散請求書に自己の氏名を自分の肉筆で書きくだしたものではなく他人に依頼して代書してもらつたものであることは極めて明白であるから残二六一名は仮に右請求書に自己の氏名を自署したものとしても二六一名では叙上有権者総数の三分の一たる三一四名になお五三名不足し本件解散請求は定足数を欠如する選挙人によりされたものに過ぎないから法律上当然無効であるという意味で」援用した。
(一) 被告相内村選挙管理委員会委員長はまず本案前の抗弁として、本件請求の趣旨一、(イ)(ロ)記載の訴はこれを却下するとの判決を求め、その理由として、原告が同被告に対し右訴を提起することができる法律上の根拠は全然存しないから右訴は不適法としてこれを却下すべきである。仮に原告が同被告に対しかような訴を提起することができるものとしてもこれを提起するにはその前提としてまず地方自治法第八五條第六六條第七七條同法施行令第一〇八條により原告主張の解散賛否投票の結果の公表の日たる昭和二三年一一月一日から一四日以内に、当該投票に関する事務を管理する相内村選挙管理委員会に原告の本訴請求原因たる事実につき異議の申立をし、該委員会の決定に不服があれば訴願法により、青森縣選挙管理委員会に訴願を提起して裁決を受けるを必要とし該裁決に不服がある場合始めて該裁決書の交付を受けた日又は訴願裁決要旨告示の日から三〇日以内に仙台高等裁判所に出訴することができるに過ぎない。しかるに本訴はごうも右手続を経由せず且つ專属管轄に関する法律規定に違背して全然管轄権がない当裁判所に提起されたものであるから到底不適法として却下される運命を免れないと陳述し、
(二) 被告青森縣選挙管理委員会委員長も又、先ず本案前の抗弁として本件請求の趣旨二に記載の訴はこれを却下するとの判決を求めその理由として、本訴は地方自治法第八五條第七六條第三項第六六條第四項同法第一〇八條により仙台高等裁判所の管轄に專属するから右規定を無視して当裁判所に提起された右訴は右規定に違背しすべからくこれを不適法として却下しなければならないと述べ、被告両名は何れも本案につき原告の請求はこれを棄却するとの判決を求め答弁として、訴外三和房美外五名が昭和二三年九月一六日原告主張の代表者であり有権者三七三名の連署の書面に基き相内村議会の解散を請求すると称し同村選挙管理委員会に書面に基き同村議会解散の請求をしたこと同委員会は同日これを受理、同月二一日その要旨を公告すると共に、同年十一月一日これを同議会、解散賛否の投票に附したこと、同委員会が同年十一月九日「その結果が無効投票四三票、有効投票八五三票あり、有効投票八五三票中、解散を是とするもの四四四票、否とするもの四〇九票で、是とするものが過半数である」として同日原告主張のような、通知及び公表をしたこと、原告等が「前顕解散賛成投票四四四票中には逆に、解散反対投票と認められるもの一〇票、無効と認められるもの三〇票あり、なお相内村選挙管理委員会において、無効と決定した。四三票中には、解散反対投票と目すべきもの三〇票あり、即ち解散賛成投票四〇四票に対し、その反対投票四四九票あり解散反対投票はその賛成投票より四五票多数であるから投票の結果は法律上当然無効である」として地方自治法第六六條第一項により同管理委員会に、本件投票の結果の無効確認を求める申立をしたこと、同管理委員会が原告主張のような理由でこの異議を認めて原告主張通りの決定をしたこと、解散請求代表者の一人訴外三和房美が同月二十二日右決定に不服として單独で、青森縣選挙管理委員会に訴願を提起したこと、同委員会は原告主張のような理由で昭和二十四年三月十一日原決定を取消し、前記投票の結果が適法妥当である旨の裁決をしたことは各これを認めるが爾余の事実は全部これを否認する。本件解散請求書の連記氏名中原告が各本人の自署ではなく他人の代筆に係るものと指摘する二五五名の氏名も全部当該請求者自身の自署即ち肉筆に係る。また前記解散賛否投票の結果、総投票数八九六票の内解散に賛成のもの四五二票、反対のもの四二三票あり賛成投票は有効投票四五二票の過半数に達するから本件投票の結果は適法妥当であり、なお本件投票用紙の包裝紙の破損はごうも本件投票の結果の判定に影響する所がない。從つて本件解散の請求、投票の結果、及び訴願裁決は何れもまことに相当にしてごうも違法の点がないから本訴請求は失当であると述べ甲第一号証解散請求書記載の各氏名は何れも本人の自署肉筆に係るものであると述べた。
よつて先ず原告主張の一、(ロ)相内村議会解散賛否投票の結果の無効確認の訴の管轄裁判所如何につき檢するに、かような訴はあたかも普通地方公共團体の議員の選挙または当選の効力を爭う訴訟に類似し当裁判所の管轄に属せず高等裁判所の管轄に專属することは地方自治法第六十六條同法施行令第一〇八條第一項(「当選」とあるは「解散の投票の結果」と読み替えるものとする)により疑念を容れ得る余地は全然存しない。次に先ず原告主張の(一)(イ)同村議会解散請求無効確認の訴の適否につき、かんがえるに、論者あるいはいうであろう。「普通地方公共團体の議会の解散に関する訴訟は新憲法及び地方自治法で創設されたかく期的民主主義の制度ではあるが、元來法律上選挙訴訟または当選訴訟の特質をもつているからこれらの訴訟に関する規定を類推適用するを相当とし、そして、この見解を是認することができるとする以上、法定数の有権者の議会解散請求後幾多の段階を経て招來される解散賛否投票の結果が判明した後、始めて該投票の結果の判定につき不服がある関係者は選挙管理委員会に対する異議、あるいは、訴願を経由して、高等裁判所に右投票の結果の効力を爭う訴訟を提起することができるに過ぎず投票の準備手続に過ぎない解散請求の効力を独立して爭う訴の如きは許さるべきではない。なお、法律が、これらの議会の議員が議会解散賛否投票の効力に関する選挙管理委員会の決定裁決もしくは裁判所の判決が確定するまでは、その職を失わない旨規定しながら、右投票の前提となる個々の手続の効力につき異議訴願もしくは訴訟(從つてまた本件議会解散請求無効確認の訴)を許すかどうか。又、かような不服申立に対する決定、裁決もしくは判決が確定するまで議員がその職を失わないかどうかについては何等言及する所がない点(地方自治法第七六條第七七條第八五條第六六條同法施行令第一〇五條第一〇八條参照)から推考すれば法律は議会解散請求無効確認の訴というような、議会解散賛否投票の結果の判定以前の個々の手続につき独立の訴が提起される場合を全然予想せず、結局これを禁ずる趣意と観ずるを相当とする」と。
しかしながら、法令にいわゆる集團有権者の議会解散請求なるものはそれ自体、議会從つて又、議員の資格消滅という集團有権者の共同の目的達成のため結成された、公法上の要式合同意志表示ないし不可分一体の法律行爲というべく、從つて、その一部構成分子の違法性(例えば解散請求者たる有権者の数が法定数に達しない場合)は延いてその集團意思表示全般の不法性を招來し、その一部の無効はついに全部の無効をじやく起するものと解するを妥当とする所、集團有権者の議会解散の請求に始まり個々の煩鎖な行政行爲の連続により実現される議会の解散賛否投票なるものが解散請求という当初の第一段階において法律上到底救済することができない重大な瑕疵(例えば解散請求書の連氏名が大部分代書、偽造、変造、不明確「詐欺、脅迫、強要の被害者もしくは欠格者の自署。」名簿すり換え撤回等に係る場合)を包藏する場合においても、独立の訴訟でその無効を攻撃するを許さず。解散請求者が解散請求の後選挙管理委員会が解散請求要旨の公表、投票期日の告示、投票の実施等数多の煩繁な手続を追行し最後に投票の結果を公表(この公表の段階に至れば、異議訴願及び訴訟が許されることは地方自治法第七六條第七七條第八五條第六六條同法施行令第一〇八條第一項により明白である。)するまではじんぜん拱手傍観、勢いの赴くままに放任しなければならないであろう。しかのみならず解散請求者が該請求に基く手続の進行により被るであろうところのてん補不可能の損害を避けるため緊急の必要がある場合においても投票が終了しその効力を爭う訴が提起されるまでは民事訴訟法上の仮処分もしくは行政事件訴訟特例法上の仮の措置により、手続の進行を阻止する機会を得ず数多の日子、金銭を浪費しつつ孤疑、不安半ば絶望という戰後の実存感を痛切に味得しなければならないであろう。そればかりではない。議会解散手続が相当進行し、解散賛否投票の段階にまで達するときは都鄙の平和をかく乱し、民心頓みにせん鋭化し、地方自治体の行政機能は殆んど停止し、逐鹿場裡がようやく騷然とするに至る等地方民心に及ぼす影響はけだし思い半ばに過ぎるものがあるであろう。そこで解散請求者において手続がかような憂慮すべき段階にまで進むを徒手見送るをやめ、既にその太初の出発点に伏在する致命的瑕疵の有無の甄別確認の訴提起の権能、解散請求後の有害無益な手続の進行を未然に防止する仮の措置を裁判所に求め得る権限をもつことこそ、憲法上認められた国民個有の権利であり、民衆の法的情感にも合致するものといわねばならない。(なお、議会解散制度を設けた地方自治法関係の諸法令を嚴密に比較吟味してみても、かような訴ないし仮の措置を求める権利をはく奪ないし排鎖する趣旨の規定は更に存しない。)從つて原告が本件で主張している事実関係のように、議会解散請求に法律上到底治ゆすることができない重大な疾患の存する場合においては、請求者たる原告が解散投票の結果が公表されるを待たず既に(あるいは、また、この公表の後においても)解散請求自体の無効確認の訴を独立して提起する法律上の利益が裕にあり、その権利保護要件を具備するものといわねばならない。即ちかような訴は本來法律上の根拠を欠くものとして無下に排斥却下すべきではなく、むしろ謙虚に上叙事態ないし経緯を考慮し正視して、これを許すに如かめやも、といわねばならないであろう。
よつて進んで本件解散請求無効確認の訴の管轄裁判所如何について一考するに、普通地方公共團体の議会の解散手続は、要するに、地方住民が、新憲法第一五條により、附與された国民固有の権利たる公務員罷免権に基き、地方自治法第七六條以下同法施行令第一〇〇條以下の規定により非民主的議会を解散し、よつてもつて新議会に眞に自由民主的に自覚した民衆の代表にふさわしい人士を送る準備手続を完履することを眼目とする一連の手続で、議会解散の請求自体は解散に至る手続の出発点であり、この請求を必須の前提要件として爾後請求要旨の公表、投票日の告示投票の実施等に進展するのであるから、これらの各段階は所謂七花八裂の関係に立たず、流轉末法の世、佛教諸派が互に割拠対立してはいるが結局唯一釈尊正佛法に帰一するように、名曲一連の一音程であり、個は全を予想して始めて個であり全は、また、個により始めてその本來の面目を維持することができるように、不可離同体一本の関係にあり、そして、右一連の手続の一環に過ぎない解散投票の結果に関する爭訟の管轄が高等裁判所に專属すること、前段で説明した通りである以上、これと相関けん連する他の一環ともいうべき本件議会解散請求自体の無効確認の訴の管轄も、また、当然高等裁判所に專属するものといわねばならないであろう。今もしこの見解を独断だとして排斥せんか。議会解散という一個の目的を志向して進展する連鎖統合過程において、その一環の爭訟が高等裁判所の、他の一環の訴訟が地方裁判所の各管轄に專属するというそご凹凸を招來し両個の手続が相い対恃独立して進行するに至り、その結果は確定判決が互に矛盾する場合をじやく起するを保し難く、かくては関係者が帰すうする所に迷い、裁判の威信は地を拂い立法者が折角大衆の自由民主主義意識を喚起高揚せんとして創設した規定の精神を全然沒却するに至るであろう。かような弊害を未然に防止し新法規の眞体を発揮宣揚しその運用を調整統一し、新時代の法的感覚を最も鋭敏に反映自悟するときは、本件議会解散請求無効確認訴訟の管轄も、また、投票の結果に関する爭訟の訴の管轄同様、地方裁判所に属せず高等裁判所に專属するものと解するを相当とする。
最後に原告主張の二、被告青森縣選挙管理委員長に対する本訴の管轄裁判所如何につき批判するに、該訴は要するに、相内村議会たる原告が、同議会解散賛否投票の結果の効力に関し、まず同村選挙管理委員会に異議を申し立て、結局申立通りの決定を受けたが解散請求代表者の一名が、これに不服として、青森縣選挙管理委員会に訴願を提起した。すると同委員会がこれを認容し、原決定を取り消す裁決をした。しかし、該裁決は違法不当であるからその取消を求めるため出訴した次第があるというにあるところ、かような訴の管轄は、本來高等裁判所に專属し、当裁判所に属しないことは、地方自治法第八五條第七六條第三項第六六條第四項同法施行令第一〇八條に照し一点疑義をはさむ余地の存しない所である。
果して以上る説の通りだとすれば、管轄権を有する仙台高等裁判所に対してされないで、全然管轄権をもたない当裁判所にされた本訴提起手続は全部違法であるから行政事件訴訟特例法第一條民事訴訟法第三〇條第一項第三一條に則りこれを仙台高等裁判所に移送しなければならない。
被告等は、本訴は管轄権をもたない当裁判所に提起されたものであるからすべからく不適法としてこれを却下しなければならないと主張するけれども、本事業のような案件につき所論のような取扱をしなければならない法令上の根拠は絶えてあることなく、訴の却下再起の提起により当事者の被る迷惑、とりわけ、提訴期間の徒過等により関係人の受ける損失を軽減し、訴訟を有効経済的に運営し、可及的その空輸を防止するため折角設けられたこの移送規定は本件の場合のように凡そ、そのこれをどうしても適用しなければならない場合に立ち至れば当然これを嵌用すべきはもとより論をまたない所で当裁判所がその運用をちゆうちよしほしいままに別途の取扱に出ることを許さるべき筋合いではないから被告等の言い分は採用の限りではない。
よつて主文のように決定する。
(裁判官 中川毅 干々和政敏 大黒正恭)